以前,仕事で,医薬品を注射する時のスピードについて聞かれたことがあります。ある医薬品の添付文書には,「出来るだけゆっくりと注射する」という記載があったんですね。(実際はもう少し学術的な用語で記載されていますが,わかりやすいように簡単に書いています。)
これについてお客さんから,
「出来るだけゆっくりと注射する、のスピードについて教えてほしい」,
という質問がありました。
「何分で注射したらいいの?1分,5分,10分?」
という質問です。
その医薬品は,とても古い薬で資料が少なかったんですね。なので即答ができなくて、いろいろと資料や文献を調べました。すると,書いてあるものが見つかったんですね。
で,次のように回答しました。(実際はもう少し専門的に回答しています。)
「『出来るだけゆっくり』というのは5分以上かけて投与するのが好ましい、とこちらの資料に、記載されていました。」
ここまできて、はじめて、「出来るだけゆっくり」という言葉の意味(定義)が明確になったということです。数字で具体的に示されたので、言葉の意味に、あいまいさがなくなったわけです。つまり、みんなが正確な情報を共有できたということになります。
ちなみに,これは、かなり以前に承認されていた古い薬の話です。最近承認されている新しい薬は,こういう問題がおきないように、情報については、出来る限り数字で記載するようになってきています。
今のメディアの言葉
しかし,今,メディアで使われている言葉はどうでしょうか?
こういう具体的な数値の裏付けのある言葉がどれくらいあるでしょうか?
もちろん,医薬品の世界をはじめ,しっかりとした根拠をもって,言葉が使われているケースは多いと思います。
しかし,メディアの情報を掘り下げていけば,根拠になる数値が怪しい,あるいは根拠そのものが無い,そんな言葉の使い方は結構あるようです。
特に,テレビのワイドショー,ネットの情報などでは,根拠なしの情報がたくさんあります。まさに「言ったもの勝ち」というような感じですね。
私のブログも…
私自身のブログでも同じようなことはあります。たとえば,前回のブログの「ゆっくり」という言葉には、具体的な速さの定義はありませんでしたね。あるのはイメージだけです。ですから,「ゆっくり」という言葉を読んだ時に、イメージしている(考えている)内容は,人によってバラバラです。
「ゆっくり」変わりたいと書きましたが,それは、1週間で変わりたいのでしょうか?それとも、1か月で変わりたいのでしょうか?それとも3ヵ月で変わりたいのでしょうか?半年、1年,3年,5年,10年?どのくらいのスピードで変わるのが「ゆっくり」変わるということなのでしょうか?
ご想像のとおり,何の話をしているのかで、「ゆっくり」という言葉の定義は全然違ってきますよね。逆に考えれば、事実がどうであれ,「言葉」の使い方次第で、どのようにでも表現できるということです。言葉のマジックという感じですね。
言葉のイメージと現実
ついつい忘れがちですが、現実の世の中を生きていく上で,とても大切なことは、「言葉」を「イメージ」だけで終わらせないことです。その「言葉」の「イメージ」ではなく、その「言葉」が現実には何を意味しているのか、それを具体的に考えることが大切だと思います。
前回のブログで書いた「新しいもの」「古いもの」という言葉,また「保守」「革新」という言葉,これらの言葉もイメージだけのことが多いです。これらの言葉が具体的には、何をさしているのか、それについては、多くの人が知らないというか無関心なことが多いですね。
あなたはいかがでしょうか?ある言葉を聞いた時に、実体がどういうものかわからないまま,イメージだけで考えている、そんなことはないでしょうか?
「少しずつ」とか「ゆっくり」というような言葉についてもそうです。何となく,こんな感じかなあ、という程度の認識ではないでしょうか?
「イメージ」だけでは、話がどんどん曖昧になっていきます。そして、そのうちに、わけがわからなくなりますね。
イメージだけだと曖昧になっていく
言葉のイメージを現実の形にすること、たとえば,数字で示せるものは数字にすること、これって大切ですね。数字化(数値化)することで,それまで曖昧としていたものがはっきりとしてきます。(冒頭の医薬品の話ですね。)
ただ,現実の問題として,多くの人は、イメージは好きですが,数字は嫌いですよね。これはけっこう重い問題です。
このあたり,人に何かを伝える時には,特に気を付けていかないといけないことだと思います。どうすれば,伝えたいことが誤解なく正確に伝わるか,試行錯誤しながらやっていくことが必要になります。イメージしか受け入れない多くの人達に,どのようにして数字も含めた正確な事実を伝えるか?かなりの難問ですよね。
みんなイメージが好きです
また,自分が伝えてもらう側の立場の時には,伝えられた言葉のイメージにごまかされないようにすることが大切ですね。その言葉は本当は何を語っているのか?そこはじっくりと考えてみましょう。
実体はないのに,言葉のイメージだけで多くの人に影響を与える、そんな詐欺のような話は,これまでもよくありました。今もたくさんあると思います。足元をすくわれないように、心してやっていく必要がありますね。
ムッシュスカラー
PS:本文中にも書きましたが、このブログの文章もイメージだけで書いていることが多いなあと反省することしきりです。もっと言葉の定義に気を付けて,具体的に書かないといけないかなあと思います。でも,まあ,個人のブログです。学術論文ではないですからね。イメージだけの話でも,それはそれでいいかなあ,と言い訳をしながら書いている毎日です…。